オリンピックがやっと終わった。
私の父は整形外科医だったが、「スポーツは体に悪い」と生前よく言っていた。仕事上スポーツ外傷をたくさん見ていたし、本人も学生時代にやった野球の影響で脊柱管狭窄症となり、わざわざ横浜の病院に入院して手術を受けていた。しかしリタイア後はテニスに興じていた。体を壊しにくい種目を選んだのだろう。
父が話してくれた症例を一つ覚えている。ある日、父の診療所に右肩関節がぶらぶらになった高校生が来た。話を聞くと進学校の野球部で、部員が少ないのでとにかく一人で投げ抜かなければならない、教えてくれる人もいないのでひたすら投球練習ばかりしていたという。その結果肩関節ががたがたになってしまったのだ。
父の手には負えなかったので東京の大学病院を紹介した。そこから来た返事は 「筋トレで改善すると思います」 だった。父は 「本当かねえ?」 と半信半疑だった。
スポーツの弊害は外傷だけではない。スポーツを行うことによって性衝動が亢進し、性犯罪が増えることが知られている。
私が高校で使った教科書には 「青少年の性衝動をスポーツによって昇華する」 とあったが、間違いだったのだ。おそらくテストステロンの分泌が増えるからであろう。大学の運動部所属の学生による性犯罪は意外に多い。私はときどきそういう被害者をケアする立場になる。
スポーツはまたドーピングという恐ろしい現象も生んだ。薬理学を知らぬ大バカたちがヒトの生理に反する薬物を使用したのだ。ロシアのように国家ぐるみでやるところもあり、まったく狂っている。
さて、今回のオリンピックはCOVID-19の感染症を増やすという効果をもたらした。感染患者数の増加はオリンピックとは無関係と主張する者がいるが、密接な関連があることは明らかだ。
理由は人の流れた増えたこと。外国から関係者が大幅に入国してきた。選手村から勝手に抜け出す奴はいるわ、IOC会長は県境を超えて広島に行ったり銀ブラしている始末である。そして何よりも選手たちが集まって競技をしている。こんな状態で国民に「自粛しろ」と命じたところで、説得力が何もないのだ。
私は4月から秋葉原に行っていたが、そのたびに人の数が増えることを実感した。7月に最後に見た公演は「RESET」であったが、街は外国人がいないことを除けば(いや、少しいたが)ほぼ感染流行前の状態であった。政治家は「人流は抑えられている」と言っていたが、そんなものは真っ赤なウソである。
今回のオリンピックは出費も多かった。総額3兆円だそうだ。国民一人当たりにすると23,752円であるが、実際のカネの出所によって傾斜をつけると、都民は一人あたり10万円の負担となる。
日本は資源のない国なのだから、スポーツをする暇があったらみんな勉強して、労働の質を高めるべきだろう。とくに学校の部活としてのスポーツはすべて廃止でいい。教師も余計な労働に苦しんでいる。そして何より学校はスポーツをする場所ではない。学問をする場所だ。スポーツがやりたければそういう施設は別に作ったほうがいい。
もっとも、少年野球や少年サッカーをやっている子供の親が負担によって病んでいく姿も仕事上しばしば見かける。やはり体や頭がおかしくなるほどスポーツに打ち込むのは問題だ。日本はどこか狂っている。
仮にそういうトレーニングによって高名なスポーツ選手になり成功したとしても、職業寿命は短い。それに対して学問は一生役に立つのだ。