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平沢進 INTERACTIVE LIVE SHOW 2022 「ZCON」

2022年3月26日

はじめて平沢進さんのコンサートに行ってきました。3月26日(土)の夜公演です。タイトルのコンサート名はチケットに印刷してあったものですが、公式サイトを見ると「ZCON」公演と書いてあります。AKB48風に言えば平沢進「ZCON」公演なのかもしれません。

私のサイトを見るかたに平沢進のファンは少ないと思いますので一応簡単に説明します。平沢さんは1954年生まれ、東京出身。1973年から音楽活動をされています。最終学歴は東京デザイナー学院。音楽ジャンルとしては基本的にはロックと言っていいと思いますが、なかでもテクノということになります。しかし私としてはプログレッシブ・ロックの要素がかなり詰まっていると考えます。むしろプログレをする道具としてテクノを使っている、という言い方が音楽的には合っているでしょう。

今回のコンサートは東京ガーデンシアターでした。2月にAKB48の新春コンサートで行くはずだったのですが、メンバーに新型コロナ感染者が出てあえなく中止となりました。そのためこの会場は今回が初めてということになります。

会場に向かう途中、それらしき人々がおられました。

私はぎりぎりに申し込んだのでステージサイド席でした。しかしとても見やすかったのです。写真で示されているH席です。このすぐ前はアリーナです。

コンサートはまず平沢さんが物語の世界観を朗読しました。これはZCONの特設サイトに書いてあった内容です。

「歴史上の何処かで人類にはアヨカヨとアンバニと呼ばれる二つの種類があるという考えが生まれました。アヨカヨとは優れた人間という意味であり、アンバニとは劣った人間という意味です....」

というあれです。耳で聴いたほうが文章より数倍解りやすく感じました。それを聞きながら私が考えていたのは、平沢さんが給食を無理やり食べさせられていたというエピソードでした。

そのあとは物語の映像と楽曲が交互に進んでいきました。そして途中で観客やネット上のファンは意見を求められるのです。ストーリーの分岐点でRとLの選択肢が示され、それを聴衆が拍手などで選んでいきます。今回はすべて正解となり、コンサートはGOOD ENDとなりました。とは言っても、知らない人は何のことかわからないと思いますので調べていただければ幸いです(無責任な逃げ失礼)。

答えを決めるにあたって、ネット上では「簡単」から「難しい」までいろいろな意見がありましたが、私はそれほど難しいとは思いませんでした。平沢さんの「すべての固定概念は疑え」「自由になれ」という話を理解していれば答えられる内容でした。実際正解の選択肢のほうが拍手は多かったのです。しかし過去のコンサートでは判断に迷うような選択肢もあったそうです。

ステージ上で演奏するメインの人は3人。中央に平沢進さん、そして左右に会人(えじん:これは平沢さん自身という扱いらしい)2人の計3人。平沢さんはボーカル、ギター、レーザーハープ。右(上手)の会人はアップライトのエレキベースを弾き、曲によってはエレキギターに持ち替えました。左の会人はエレキバイオリンをエレキベースに持ち替えました。そのほか最後のほうでサックスの女性とボーカルの女性が舞台前方左右に現れました。これは物語に関連した登場です。

物語の中では以下のような人物が現れました。

道化師までは実質的に平沢さんです。改定評議会は観客というわけです。

楽曲の殆どはアルバム「BEACON」のものでしたが、別な曲も入っていました。

  1. COLD SONG
  2. TRAVELATOR
  3. LANDING
    (質問の答L→正解)
  4. 燃える花の隊列
  5. 転倒する男
    (質問の答R→正解)
  6. 消えるTOPIA
  7. 幽霊列車
  8. LEAK(還弦)
    (質問の答R→正解)
  9. 論理的同人の認知的別世界
  10. BEACON(途中まで)→TIMELINEの終わり
  11. ASHURA CLOCK(還弦)
  12. BEACON
  13. 記憶のBEACON

意外なことにアンコールはありませんでした。観客は盛んに拍手をしていましたが、会場が明るくなってしまいました。でも誰も不満そうではありませんでした。

楽曲を音楽としてみた場合、とてもsteadyな(=安定感が半端ない)感じがしました。私にとって「見ず知らず」の音楽ですが、安心して聴いていられました。音楽的なセンスが極めて良いのでしょう。

プロのミュージシャンでも生来あまりいい音楽を聴いてこなかった人が音楽的に間違った音を使ってしまう場合があります。しかし平沢さんの場合は問題のあるような音を演奏することはありませんでした。このへんは正規の音楽教育を受けてこなくても、良い音楽を聴いて育ち、まともな感覚があれば何とかなるものなのです。最近のJ-POPではこのあたりの問題を持ったアーティストをときどき見かけます。

本題から逸れますが、音楽教育を受けたから良いというものでもありません。音楽教育というものは知識や技術に洩れがないようにし、より高い表現力を身につけるためのものです。ですから実際に音楽を演ることにおいて教育は必須なものではありません。たとえば文学部で学んだからといって小説家になれるわけではありません。良い小説家になるためにはその人が過去に良い文章をたくさん読んでいて、なおかつ発想力・表現力があるかどうか、ということが大事です。音楽でも事情は全く同じです。

それと、平沢さんのパフォーマンスには音楽家というより美術家・ストーリーテラーのテイストがありました。会場で見せられる映像はもちろんですが、舞台での演奏や構成なども総合的な「アート」の香りがしました。このへんはデヴィッド・ボウイと似てるなあと思っていたら、ボウイは生前P-MODELの公演を見に行っており、平沢さんを気になるミュージシャンの一人だという意味のことを言っていたそうです。これは今回調べてみて初めて知りました。たしかにボウイも「ジギー・スターダスト」とか「シン・ホワイト・デューク」とかやってましたね。

今回の平沢さんのコンサートはストーリーとかインタラクティブな要素があるわけですが、ストーリーから一歩進んで哲学的であると言ってもいいかもしれません。こういうミュージシャンは他にもいますが、反戦平和などとバカの一つ覚えのように叫んでいた団塊のミュージシャンよりははるかにものを考えていると思いました。エヴァが好きな人なら理解可能だろうと思います。私はオタク第一世代に当たりますが、平沢さんもpreオタク世代と言っていい人で、現代のオタクに通じるものを持っています。

精神科医の立場から見ると、これだけの創造力を長年に渡って保っているということは、おそらく人生でかなりの葛藤を抱えてきたからだろうと想像します。それが平沢さんの言う少年期のトラウマなのか、もっと別なものなのかはわかりませんけど。

前提となる考え方を紹介すると、創作というのは満ち足りている状態ではなかなか難しい、ということがあるんですね。つまり何か大きな悩みごとがあるほうが創作意欲は湧いてくるものなのです。たとえば彫刻家のオーギュスト・ロダンが自らの浮気に悩んでいるときに素晴らしい創作をしたとか、歌人の長塚節が神経症や結核で悩んでいたとか、インドネシアの超人気タレントになった仲川遥香が実は施設で育ったとか、そういう例があります。したがって豊かな創作ができたとしても、人として生きていく上では不幸であるということがしばしばあります。もちろんそれを他人がどうこう指図する権利はありません。

帰りは雨になってしまいましたが、心地よい疲れを感じ、会場をあとにしました。ゆりかもめは殺人的な混雑になるかと思ったのですが、あっけなく座れました。

ところで、今回私は宇都宮線に乗って東京に行ったのですが、まず出発時にダイヤが大幅に乱れていました。浦和のあたりでなにかあったらしいのです(この辺の情報はきちんと調べていません)。しかしちょうど動き出したところだったので大丈夫だろうと思ったのですが、新白岡の手前で緊急停車してしまいました。「前の列車が踏切で何かに衝突した」というのです。しばらく待たされたのち、解決したため動き出したのですが、またすぐに止まってしまいました。今度は乗っている電車に架線トラブルが起こったようなのです。車掌さんが降りてどこかに行ってしまい、またもや待たされました。これもやがて解決。

なんとか会場には間に合いそうだとほっとしていたら「この列車は大宮止まりになります」とのこと(本来は平塚行き)。どうも大宮から先もダイヤが乱れているらしいし、これは埼京線か新幹線を使うしかないか、と観念したのですが、大宮で高崎線からの電車が来てくれました。しかしこれも上野止まり。しかも低いホームに到着でした。まず会場にたどり着くまでに大変な目にあった、という話でした。

写真は新白岡手前で止まっているところです。遠くに圏央道が見えます。

それでは、また。


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