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ショックウェーブを使ったPCI(冠動脈形成術)治療を受けた経験

2023年11月5日

いまから10年以上前である。某検診クリニックで心臓CT検査を受けたとき、
「冠動脈に狭窄があるようなので治療をお勧めします」
と言われた。自覚症状はまったくなかったが、そのときの画像を見ると確かに狭窄部位があるように思われた。そこで地元の総合病院の循環器内科を受診した。

院長は世界的に名高い循環器の専門家であった。先生は画像を見るなり
「このCTを見てもはっきりとした狭窄は見当たらないですね」
と言った。
「そうですか。しかし私は両親が高血圧で、今後虚血性心疾患が出てくるリスクは高いと思います。どのように注意すればよろしいでしょうか」
「自覚症状が出てから来てくれれば大丈夫ですよ」
このような返事であったため、日常生活習慣に気をつける一方、特別なことはしていなかった。

1年ぐらい前から、重い荷物を持って長距離を歩くと胸に圧迫感を感じるようになった。最初は運動不足の影響だろう、ぐらいに考えていた。痛みではなく放散する感じもなかった。しかしだんだん症状がはっきりしてきたため、心筋虚血を疑い始めた。私は日常あまり歩かないが、ヲタ活では結構歩くことが多い。そういうときは症状が出る。治療を受けることを決めた。

まずかかりつけ医に現状を説明し、以前の総合病院への紹介状を書いてもらった。そこの循環器内科への検査入院がすぐ決まった。

1泊2日の入院で心臓カテーテル検査。13時、ほとんど手術室みたいな検査室に寝かされた。まずは穿刺部の麻酔。よくこの麻酔が痛いと言われるが、ちくっとする程度でたいしたことはなかった。むしろ検査中に手首や前腕が圧迫されることのほうがきつかった。おそらく動脈の穿刺した部分などを押さえていたのであろう(見ていないので正確なことはわからない)。

右手首(撓骨動脈)からカテーテルが入り、冠動脈の造影が行われた。造影剤が入るときは胸が熱く感じるのでわかった。いろんな方向からX線写真が撮られ、1時間ほどで終了した。

ドクターから言われたのは左前下行枝の病変であった。枝は1本だけだ。これはラッキーだった。複数だと開胸手術が必要になることが多いからだ。

「しかしですね」
ドクターは続けた。
「目立つ病変は確かにこの一本だけなのですが、石灰化の部分が長いため、単純にステントを入れただけでは冠動脈が広がらないでしょう。ここにバルーンを入れてショックウェーブで石灰化を割ってしまう方法を行うのが良いと思います」
「そうですか」
「ただ、この病院ではまだこの治療を行ったことがないので先生(私のこと)が一例目になります」
「....」

冠動脈は石灰化のために血管の収縮性に欠ける。このままステントを入れても血管が広がらないので石灰化を衝撃波で細かく砕く。すると内腔が広がりやすくなるので、そこにステントを入れてしまおうという治療である。

一例目と言っても大学病院から来ている先生なので、そちらでは経験しているはずである。だが一例目はちょっと....

そこで私は言った。
「実は私の出身校に循環器の知人がいて『こっちで治療してはどうだ』と言われているのです。それでもよろしいでしょうか」
「ああ、問題ありませんよ。診療情報提供書をお作りしましょう」

別にこの病院を信用していなかったわけではない。ただ、一例目となると抵抗があった。実はこの治療法はまだ始まったばかりで、症例数が多いところなどないのだ。しかし私は母校に絶大な信頼を感じているので、そのように決めた。

それから何日かあとに母校の大学病院を受診した。そこで入院前検査を受け、入院日はすぐ決まった。

治療は二泊三日であった。初日は入院したのみで何もなし。夜にプレドニン30mgの内服があった。これは喘息発作や造影剤アレルギーへの対策である。30mgは多いのではないかと思ったが、喘息がある場合の周術期管理としてソル・コーテフを使うことがある。それを考えれば見合った量だと言える。

翌日朝に改めて採血が行われた。昼は絶食で14時から治療となった。絶食なのは緊急開胸手術にも備えてのことかもしれない。

今回も手術室のようなところで撓骨動脈からカテーテルが入った。やはり苦痛としては右腕が押さえつけられている鈍痛のみであった。ただ、造影剤が冠動脈近くで放出されるときは熱く感じた。またバルーンに包まれたエミッターが衝撃波を発するときに冠動脈の血流量が一時的に下がるようで、そのときは運動負荷がかかったあとのような胸の苦しさが起こった。そのときドクターは「ST上昇」と言っていたから、実際に虚血が起こったのだろう。

注)ST上昇は心筋の虚血が心室壁の内側から外側にまで貫通して起こった場合の心電図上の所見である。

1時間半で治療は終了。 「冠動脈はうまく広がりました」 とのことであった。

治療後は手首に止血バンドが巻かれる。空気で圧迫する仕組みである。その日の夜21時にはこれは取ってもらえた。ただし点滴は翌朝まで繋がっていた。

前日は割と眠れたが、治療した日の晩はあまり眠れなかった。

そして翌日退院となった。退院のときにはまだ右手を穿刺された「傷」の痛みがあったが、日中時間が経つにつれて痛みはなくなった。当日はあまり手に力を入れないでくださいと言われたが。

その後長い距離を歩いてみたが、狭心症の症状は出ていない。


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